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夜だけ開く郵便局

第4稿・挿絵付き

夜の仕事机に置かれた封筒と、椅子の青いマフラー。
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ミナは、町の仕立て屋です。
服を縫ったり、破れたところを直したりしています。

ある秋の夜、お客さんの服に最後のボタンをつけると、今日の仕事が終わりました。
窓の外では、ほかのお店はもう閉まっています。

仕事机には、友だちのハルに出そうと思っている封筒がありました。
ハルは春に、遠くの町へ引っ越しました。

ミナは封筒に宛名を書いたきり、手紙を書けずにいました。

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鍵を机に置いて戸口を去るハルと、離れて見送るミナ。
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ハルが引っ越す前の日のことです。

ミナは、離れて暮らすのがさびしくて、つい言ってしまいました。

「もう、遊びにこなくていい」

ハルは黙って、預かっていたミナの家の合鍵を机に置きました。
いつもなら「またね」と帰るのに、その日は何も言わず、扉を閉めました。

ミナは謝れないまま、ハルと別れてしまったのです。

謝りたい。でも、もう話したくないと思われていたら。
そう考えると、手紙も書けませんでした。

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窓辺で手紙を書く人を見つけ、夜の郵便局に近づくミナ。
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今夜も、その日のことを思い出すと眠れません。

「今夜こそ、手紙を書こう」

ミナは青いマフラーを巻き、ハルの宛名を書いた封筒をポケットに入れました。
何と書くか考えながら、少し歩いてみることにしたのです。
少し歩くと、路地の奥に明かりが見えました。

小さな郵便局の看板に、こう書いてあります。

「夜の郵便局。夕方から、朝まで開いています」

窓からは、机で手紙を書いている人が見えます。
ここでなら、自分も書き始められるかもしれません。
ミナは扉を開けました。

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車掌が手紙を書く机のそばで、郵便屋から紙を受け取るミナ。
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中では、仕事帰りの車掌さんが手紙を書いていました。
窓際の机には、もう一つ空いている席があります。

ミナは窓口で、丸眼鏡の郵便屋さんに言いました。

「友だちに手紙を出したいんです。でも、何から書けばいいのか……」

郵便屋さんは、手紙を書く紙と鉛筆を渡してくれました。

「あちらのお席をどうぞ。ゆっくり書いてくださいね」

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鉛筆を止めるミナのそばで、ランプを近づける郵便屋。
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ミナは席に座り、「お元気ですか」と書きました。
けれど、そのあとの言葉が出てきません。

隣の車掌さんは手紙を書き終え、帰っていきました。
ミナの鉛筆は、止まったままです。

郵便屋さんが席のそばへ来て、紙がよく見えるようにランプを寄せてくれました。
何も聞かず、ミナが書くのを待ってくれました。

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雪道で一本の長い青いマフラーを分け合い、笑うミナとハル。
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ミナは、首に巻いたマフラーの端に触れました。
すると、ハルと過ごした去年の冬を思い出しました。

ミナは二人のために、おそろいの青いマフラーを編みました。
でも、ハルの分だけ、ずいぶん長くなってしまいました。

ある雪の日、ミナは自分のマフラーを忘れて出かけました。
ハルは「半分、貸してあげる」と、長いマフラーをミナの首にも巻いてくれました。

一本のマフラーを二人で巻いて歩くと、曲がり角で肩がぶつかりました。
二人とも、思わず笑いました。

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消し跡のある便箋に、木製の鉛筆で手紙を続ける手元。
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郵便局の席で、ミナの口元が少しゆるみました。
鉛筆を持ち直し、ハルに話しかけるつもりで書きました。

「そっちも寒くなったかな。
あの長いマフラー、まだ使ってる?
二人で巻いて歩いた日のことを思い出したよ」

ミナは、書いたり消したりしながら、少しずつ手紙を続けました。
いつの間にか、窓の外が明るくなり始めていました。

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鉛筆を机に置き、書き終えた手紙を読み返すミナ。
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最後に、ずっと言えなかったことを書きました。

「遊びにこなくていいなんて言って、ごめんね。
本当は、ハルが引っ越してしまうのがさびしかったんだ。

また会って、話がしたいな」

ミナは手紙を読み返し、鉛筆を置きました。

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開いた封筒と手紙を持ち、窓口の郵便屋と話すミナ。
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郵便屋さんが、手紙を運ぶ鞄を窓口へ持ってきました。

「もうすぐ、ここに集まった手紙を運びに出ます。お手紙も、お預かりしましょうか」

ミナは書いた手紙を持って、窓口へ行きました。
封筒に入れかけて、手を止めます。

「ハルから、返事は来るでしょうか」

郵便屋さんは答えました。
「返事が来るかは、私にもわかりません。でも、この手紙はハルさんへお届けします」

ミナは少し迷ってから、うなずきました。
「謝りたいんです。だから、出します」

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切手を貼った封筒を受付箱の正面の口に入れ、離れた手。
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ミナは、封筒に手紙を入れ、のりで口を閉じました。
切手を貼って、窓口にある手紙の受付箱へ入れます。

ことん、と手紙が箱の中に落ちました。

「お願いします」

ミナは郵便屋さんに頭を下げました。

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郵便局とパン屋を後に歩くミナに、自転車の郵便屋が後ろから近づく朝の道。
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郵便局を出ると、もう朝でした。
通りのパン屋さんが、お店の扉を開けています。

「おはようございます」

ミナも「おはようございます」と返しました。

後ろでは、郵便屋さんが郵便局の明かりを消していました。
やがて、手紙の入った鞄を自転車に載せ、ミナを追い越していきました。

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朝の窓を開けた自宅で、封筒のなくなった机に向かい手袋を編むミナ。
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ミナは家に帰り、仕事机の前に座りました。
ずっと置いてあった封筒は、もうありません。

ミナは窓を少し開けました。
朝の冷たい空気が入ってきます。

籠から編みかけの手袋を取り出し、封筒があった場所に置きました。
それから編み針を持って、続きを少しずつ編み始めました。

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おしまい

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

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